F-1名勝負の5-1993年イギリスグランプリ

 1993年のF-1シーンは、前年までとはちょっと違った画像がみられた。
 マクラーレンが前年までのホンダエンジンからフォードに変更したことと、前年チャンピオンのナイジェル・マンセルがF-1界から姿を消してしまった事等だ。
 フォードエンジンに変わったマクラーレンは、前年までのF-1エンジンでは最強と言われたホンダパワーを失い、今までのようにウイングをほぼ直角に近く立ててダウフォースを稼ぐ、と言うわけにはいかなくなっていた。
 しかし、これまでホンダパワーの恩恵にたよった付けは大きく、一朝一夕にはマシーンの開発が進まず、ライバルのウイリアムズや同じフォードエンジンを搭載するベネトンに、マシーンの挙動が追い付いてはいなかったといえる。

スポンサーリンク

 しかしセナはこのような状況の中でも、全く光を失うと言うことはなかった。
 特に、ここ“ドニントンパーク”でのレースでは“雨のセナ”の異名を存分に発揮して、未だに忘れられないレースの一つとして、F-1ファンの心に刻まれている。
 予選一日目の4月9日金曜日は雨。マクラーレンMP4/8とセナのコンビは、雨の中でトップタイムを記録して見せた。
 翌、10日土曜日は終日晴れ。セナはマシーンの挙動に苦しみ、午後になってもタイムをあげることが出来ずに、予選4位に沈んでしまった。
 マシーンの挙動に苦しむドライコンディションでは、アンダーパワーにもかかわらずにウイングを立てることしか方法がなかったからだった。
 予選結果はPP~2番手までがウイリアム・ルノー勢の、アラン・プロストとデーモン・ヒルが占めた。3番手には新進気鋭、ベネトン・フォードに乗るミハエル・シューマッハ。そして4番手にやっとマクラーレン・フォードとアイルトン・セナの名前がでてくるの。
 このレースからベネトンはB193Bを投入していた。空力とシャシー性能に優れたベネトンとシューマッハは、これ以降しばしばセナの前を走るケースが多くなっていくのだった。

 11日の決勝は雨がぱらつく、変わり易い天候だった。
 ウエット傾向のコンディションの中で、スタートが切られた。セナは得意のロケットスタートを決められずにやや出遅れた。予選5番手のザウバーに乗るベンどリンガーに抜かれて5位に落ちた。更に、シューマッハにも幅寄せをされて、コースの一番アウト側に追いやられる形になってしまった。
 だが、濡れた路面でのセナは棲まじかった。
 1~2コーナーにかけて、前をいくシューマッハに襲いかかり、セナのプレッシャーにほんの少しのミス、これがミスなのかと言うほどの小さなミスを犯したシューマッハのインをつくと、あっさりとかわして4位にポジションを上げた。
 続く大きくうねるようにして下っていく左コーナー。ここでもセナはまさに鬼神の走りを見せた。レコードラインとはかけ離れた、誰も通らないアウト側のラインを走り、一気にベンドリンガーを抜き去ると3位にそのポジションを上げた。誰も通らないのだが、セナにとってそこは、セナ専用のレコードラインだったのだろう。
 セナの勢いは止まらなかった。先行するウイリアムズのヒルをマクリーンコーナーで、これもまたあっさりと捉えてしまった。
 セナは更にペースを上げて、トップを走るプロストの背後に迫る。
 振動するミラーの中に、プロストにとっては懐かしくもあり、ある意味では忌まわしい思いもある赤白の“マールボロカラー”のマシーンが映った。しかも、信じられないようなスピードで雨のなかを迫ってくる。さすがのプロストも、焦りを禁じ得ない。
 メルボルンヘアピンが迫ってくる。プロストはいつもどおりに、自分のレコードラインに乗せるべくブレーキング・シフトダウンをしてステアリングを切り込む。プロストの乗るウイリアムズは理想的なラインに乗った。これで抜かれることはないと、プロストは確信したが、セナはここでも誰も通らないようなラインを使って、プロストをかわしていったのだった。

 スリッピーでコース幅が狭い、雨のドニントンのコースでセナだけが誰も使わない、いや使えないラインを使って、たった1週で4台を抜き去りトップに立ってしまったのだった。
 こうなると、ライバルたちは牙を抜かれて、セナに対する戦意を喪失してしまった。セナと同じリスクを負ってまで、セナとのバトルをする気力などは、最早誰にもなくなってしまったのだった。これで勝敗は決まったも同然だった。
 2週目以降もセナの勢いは止まらず、天候に翻弄されるライバルたちをしり目に、トップでチェッカーを受けたのだった。
 レース後のインタビューでギアボックストラブルを抱えていたプロストが言い訳をしていると、セナは「それならマシーンを取り替えてあげるよ」と言ったとか、言わなかったとか。
 セナがセナである理由を示した、ものすごいレースだった。ライバル全員を相手にした、まさに名勝負だ。

コメントは受け付けていません。

スポンサーリンク